卒業生の言葉

藤田 和

漆作家の藤田和 フジタナゴミです。早いものでさんかく工房に通った頃から 10 年が経ちました。大学時代から現在に至るまでの制作活動、作家活動で工房で学んだことが現在の自分を助けてくれているなぁと感じることがたくさんあります。
1 つは作品を作る上での描写力です。観察力とも言えるかと思います。私は描き込みの多い作品を作るのですが、その時のモチーフのリアリティは高校生の時のデッサンが基礎になっています。印象に残っているのは基礎で描いたタオルの課題です。タオルの毛の 1 本、形に沿った毛の流れの法則が見えてくる瞬間があり、これが描けるとグッとリアルに説得力のある作品になります。こうしたモチーフの観察の仕方(モチーフとの向き合い方)を学べたのはすごく大きいと思っています。
2 つ目は課題設定と問題解決力です。さんかく工房では毎回のデッサンや色彩の課題の後にかなり濃厚な合評がありました。言語化が得意ではなく苦しんだ記憶もありますが、自分がモチーフのどこに、どんな魅力を感じて、それを表現するためにどのような工夫をしたか、もっとどんなことができると思うか、を各自発表し意見し合いました。この時の経験がそのまま現在の素材への向き合い方に繋がっています。工芸素材を扱う上で、ただその素材を当たり前に扱うのではく自分なりにどんな魅力を引き出したいか、そのためにこだわるポイントはどこかを決め 1 つずつ試行錯誤を重ねます。1 つ作品ができると課題がいくつか見つかるのでどんどん次の作品の構想が浮かびます。啓介先生が 「さんかく工房の生徒は 30 歳になっても制作の息切れがない」とおっしゃっていたのでが、まさにそうだなと感じています。どんどん試したいことや表現のキーワードに気がつくので時間が足りないくらいです(笑)。
最後に先生方先輩方、当時一緒に学んだ友人たちとの変わらない関係もとてもありがたく感じています。先生方は今でも応援してくださっていますし、様々な相談にものってくださいます。10 年前の作品から現在の作品まで知っていてアドバイスを下さる貴重な存在です。先輩方友人とも初めまして、お久しぶり、という場面で、同じ経験(さんかく工房での課題や合評など)をしてきているのでスッと本題に入っていくことができるのもいいなと思います。さんかく工房はデッサンなどの基礎を学べるだけではなく、観察力、課題設定、問題解決力など社会に出てからも自分を助けてくれる能力を育める場所だと思うので、ぜひ工房や作品展の見学から気軽に足を運んでみていただけると嬉しいです。

土谷 菜生

プライドが高く途中で躓くと嫌になってしまう。これが私の性格でした。納得がいかないとすぐに手を止めてしまう、時間がなかったなどと言い訳をし自分の未熟さに向き合おうとしない。作品の出来の善し悪しに一喜一憂し自分の機嫌に振り回される…etc。思い出す度に「本当にご迷惑をおかけしてしまった…」と頭を抱え今文章にしたためています。そんな私を我慢強く一生懸命制作に取り組めるよう育ててくださったのはさんかく工房でした。さんかく工房は生徒の個性を非常に大事にしてくれる場所です。通い始めたとき、「こんなこと考えて描いたらおかしいかも」と周りの目を気にしていました。ですが周りの生徒の表現や考えていることを聞いて「それ、ありなんだ」と驚き、同時に安堵したのを覚えています。私の居場所を作ってくれたような、そんな嬉しさもありました。
もう1つさんかく工房の大きな特徴としてアットホームなところが挙げられます。さんかく工房は大手の美術予備校と比べて遥かに生徒数が少なく、だからこそ先生と生徒の距離が近く生徒の様々な悩みに寄り添っていただきました。先生から卒業した生徒の話をよく聞いていました。「この子はこんな作品を作っていた。こういうエピソードがある。素敵な子だったのよ。」と昨日の出来事のように話し、聞く度によく覚えているなと感心していました。先生はいつも私たち生徒のことを熱心に考えてくださっていました。
また生徒同士の仲も良いところも特徴です。節分の日、授業終わりに近くのスーパーへ恵方巻きを買いに行って皆で食べた思い出があります。受験シーズンでしたがそのような心の余裕があったのは共に受験を乗り越えた仲間のおかげだと思います。さんかく工房に行って私は、時間がなかったという言い訳をしなくなりました。必ず作品を完成させる。作品を作る手を止めない。今私には何が足りないのかをちゃんと受け止める。根性、などと言う言葉は時代遅れかもしれませんが、頑張らなければいけないときにしっかりと頑張れる強さを持つことができました。
今思えば先生方は1度も作品の出来について指導することはあってもお叱りになったことはありませんでした。本当に喝を入れるのは描き手の作品への態度があまりよろしくないときだけ。真伨に向き合えばその姿勢に応えてくれる1つの優しさを知りました。芸術には正解はない、とは言いますがやはり順位をつけられてしまう世界です。周りの作品に圧倒され落ち込むこともあります。ですが毎日コツコツと努力し実力をつけてきた作品には誰も勝てない無敵の力が備わっています。私は才能やセンスなどという言葉とは無縁で努力で這い上がってきた人間です。羨ましいと思ったことはたくさんあります。しかし少しずつ出来るようになる喜びを大事にできる人になれたので今は無くてよかったと思っています。上手くいかない、躓いてしまうのは1歩でも進もうとした証拠だということを忘れないでください。私も、人として、作品を作る者として、まだまだ未熟な人間ではありますが今やりたいことややるべきことをしっかりとこなし、1歩ずつ進んでいくことがさんかく工房への恩返しだと思い日々精進します。
ここまで読んでくださりありがとうございました。

野儀 伊代

私は京都市立芸術大学 美術部 工芸科 陶磁器専攻にて4年間学び、卒業し、今年から社会人として生活しています。
大学4年間で、素材とアートの関係性・人とアートの関係性・人の衣食住に関するモノづくりとは何か、を本気で学ばせて頂きました。ここでの学びは、さんかく工房で地道にコツコツ学ばせて頂いた「考える」そして「それを表現し伝える」という事が大きな力となり、自分の自信に繋がり、そして背中を押してくれました。また、大学時代には憧れていた建築業界に少しでも近づく為に、陶磁器を学びながら図面やデザインについても学びを進めました。高校生時代に培った「学びへの姿勢」が役に立ちました。また、その様な広い学びが陶磁器での制作にも活かされたように思います。そしてかねてからの夢だった建築業界に新卒で入社しました。しかし、先日その会社を退職しました。労働環境の悪さから体調を崩したことがきっかけでした。かなりの自己嫌悪が自分を襲いました。そんな中たくさん悩んだ結果、自分の好きな事(=制作活動だなと今になってようやく気が付きました。)を出来る環境で生きていこうと心に決めました。「憧れ=自分のできる事」ではない事にも気が付いたし、「自分の好きな事=絶対に人生をかけてしないといけない事」でもない事にも気が付いたこの一年弱でした。自分の好きな事や出来る事、やりたい事、それは時間と共に移り変わるし、だからこうしないといけない!ということもなく。しかし、そこで1番大事な事に気が付きました。「行動しなければ何も分からない」この事に限りました。悩んでいるなら、とりあえず少し何か行動してみる。そんな勇気と気力がいる事を何故出来る自分になっていたのか。その背中を押してくれたのもやはり、さんかく工房で身に付いた「考える力」「表現し伝える力」でした。いつも自分の自信に支えになってくれる存在を身に付けることができました。
さんかく工房での学びはピカイチです。実際に第一志望に現役で合格出来ました。その時の学びは今でも誇りに思っています。大学受験も安心して臨めました。それらは大前提のもと、さんかく工房での学びは、受験のみならず大学でも活かされ、生きる力と自信になります。あの繊細で大事な時期に過ごした「さんかく工房」は、私にとって第二の実家であり、先生方は第二の両親だと思っています。
迷っているのなら、まずはさんかく工房を訪ねてみてください。その一歩が大きな一歩です。私もその1人でした。
これからも1人でも多くの方が、はじめの一歩を踏み出せて、素敵な学生生活を歩みだせる事を願っています。

岡 ななみ

さんかく工房の特徴は、少人数型で一人一人に寄り添い、基礎から丁寧に教えてくれるということです。最初から時間を決めてデッサンや色彩の課題をするというわけではなく、根本的なものの見方であったり、色のことを教えてくださいます。一つ一つ階段を上がっていく感じなので、楽しく課題に取り組むことができました。
さんかく工房へ行ってみて、作品を作ることの難しさや楽しさを学びました。私は絶対にさんかく工房に通ってなかったら志望校に受かってないだろうなとひしひし感じます。受験期は、辛いこともたくさんありましたが、さんかく工房で学んだ日々はとても濃い思い出です。受験期の慶子先生は、母かな?と思うぐらいに心の支えになる存在でした。
そんな温かいさんかく工房で、たくさんのことを学び、目標に向かって頑張ってください。応援しています。

今出 真愛

さんかく工房の特徴として、 少人数だからこ その結束力があります。 授業の中での合評では、1人1人に時間をかけて全員分に先生が言及してくださるからこそ、その日の授業が合評のみで終わる日もありますが、 自分の考えたことを言葉にする力が身につけられたと思います。 生徒間での質疑応答や、客観視を通しての評価は自分では気づけなかった作品への理解を深めてくれます。 作品ができた後に、改めて考えを自分の言葉にすることで学べることがありました。
大学に入ってから、 受験の時のデッサンはどこで生きてくるのと悩んでいる子や、人前で話 すことに苦手意識を持っている子がいました。 日頃からデッサンの核心について話し合ったり、合評で何回も話をすることに慣れていた私 はそのような悩みはなく(逆に話しすぎと言わ れる程で)、 画塾での行いで、 受かったという 結果は同じでもここまで物事への捉え方が違う のだと驚きました。私にとってのさんかく工房は、 ” 共有する場” であったと思います。 お互いがライバルで あること以上に同じ美術が好きな仲間であり、 感じたことや考えたことを日頃から話し合っていました。 同年代の子達とはなかなか話しづらいことでも、 さんかく工房という場や、 さんかく工房の仲間に会うと自然と話せる空気を感じます。 大学では、同じように沢山の話ができる 環境にありますが、 大学に入る前にそういった 場所や仲間を得られたことは大きかったです。 さんかく工房を卒業した現在も、 先生の搬出 や搬入のお手伝いの貴重な体験に声をかけていただき、 また卒業生の方や先生の展示を見に行くことなどの機会があり、 さんかく工房の縁を ひしひしと感じられます。 そして、 私はさんかく工房というチームに在籍しているのだと嬉しく感じます。 技術を高めることについてはもちろんのこと、美術を行っていく上で必要となる部分を養う場として、 さんかく工房をぜひ勧めたいです。
さんかく工房に来て素晴らしい出会いをしたと 感じています。 ありがとうございます。

木村 健太郎

僕にとってさんかく工房は自分としっかり 向き合える場所でした。自分自身が納得できる絵は自分の手でしか生み出すことができない。「僕が作っているんだ」 という感覚はこの環境だからつかめたものだったと思っています。さんかく工房では毎回自分達が描いた絵を囲んで言葉にしていきます。その話し合いの根本にあるのは「伝えたかったこと」です。受験はどうしても合格するのが目標になってしまうので、盲目的に戦略的な絵を描いてしまうことがあります。だけど本当に大切なことは自分自身がやりたいことを課題の中で見つけてやり切ることです。そのことに気づくと自信を持って進んでいくことができたし、何より描いていて楽しかったです。受験生はこれから先またいろんな道に進んでいきますが、ここで知ることができた感覚はどんな道においても大切なことだと思います。僕はこの場所で絵を描くことができてよかったです。

白濵 真理子

私は高校生の頃にさんかく工房に通い始めて、3年間お世話になりました。
私にとって作ることは一人になるための、自分の安全地帯のようなものでした。喋ることが上手くない私は作品を作れば人と直接かかわらなくてもいいと思っていました。でもさんかく工房に行くと、どうしてここはこの色なのか、どうしてこの構図なのか、何を伝えたいのかとたくさん質問されました。最初はそういうことを話したくないから絵にしてるんだよって思っていました。批判される、傷つけられるんじゃないかとなかなか話さなかったのですが、いざ話してみると先生たちが私の大切にしている表現したいことを否定することはなかったです。むしろそれらをどのようにしたらもっとよいように表現し伝えることができるのかを一緒に探してくださっていました。
そのようななかで、「作品を作ること」が自分の殻に閉じこもるためのものではなく、自分の核の部分を大切に外に出す行為になっていきました。そして、より外からのものを吸収し、より深く自分を見つめられるようにもなったと感じています。
さんかく工房は表現者としての基礎を育ててくれました。たくさん考えさせてくれた場所であり、それを受け止めてくれる人たちがいてたくさん話すことができた場所でした。
私は今社会人1年目で溶接工として働いています。幼い頃から漠然と職人さんに憧れがありましたが、その頃想像していたのは山に一人籠もってほとんど人と関わらない職人でした。でも今、社会のただ中にいる職人になりたいと思えたこと、そして町の板金工場のいち溶接工になれたことを嬉しく思っています。この社会の中で働きながら、作品を作り続けることが今の目標です。
会社はいわゆる美術関係の人がいるような企業ではありません。ですが、会社の中で起きる問題や出来事に対して周りに合わせておけばいいではなく、自分で考え行動できること、自分を持った上で周りの人と話ができることはさんかく工房で鍛えられた部分なのかなと思います。また、日々の仕事をしている中でもここをこうしたらもっといいんじゃないかといろんな発想が湧いてきて言ってみたりしています。的外れのことも多いですがどんなことでもこれまでと違う視
点からの意見や質問は、新しい考えが生まれるきっかけになるので意外と会社の人たちに喜ばれました。
受験生の時に学んだ、ものを見る姿勢や表現する姿勢は将来どんなことをしていようといかされてきます。ぜひ今思いっきり作り、考え、学びを進めてください。